1月某日。早朝の鵠沼。
6時を少し過ぎたあたり、この時間、まだ空は暗く、星たちが煌く。江ノ島はそこだけ黒く闇夜に沈み、シーキャンドルの灯光が漆黒の海を舐める。ボードを脇に抱え、白い息を吐きつつビーチに下りたつ。ブーツを履いているのに、砂浜の冷たさが足の裏に遠慮なく沁み込む。今朝は一番乗り、と思ったのも束の間、既にサーファーの影がちらほら見える。僕と同じ出勤前サーファーだろうか。みんな早い。
昼間の喧騒が嘘のような静かな海、ゆっくりと漕ぎ出すが、夜空と海の境が暗くて判然とせず、沖からのうねりもよく分からない。それでも、パドルを続けラインナップと思しきあたりで板に跨り波を待つ。我ながら、好きだなぁと思わず笑ってしまう。目が慣れてきて、海原の起伏を何となく掴めるようになると、迫り来る一際黒い隆起に当たりをつけ、いぃ〜ち、にぃ〜と深めに、そして力強く海を掻く。黒い斜面に沿って板がすっと走り出し、丁寧に立ち上がる。ノーズ越し、海が月光に煌めいている。moonlight surfing。
サーファーも少なく空いているので、練習にはもってこい。30分ほど戯れていると、三浦の先っぽが早暁に染まり、やがて太陽がゆるりと顔を出す。深寒とした空気が緩み、辺りの明度も加速する。この時間、何だか惑星『地球』を感じてしまう。板に跨ったまま、真っ白な富士山に目をやると、昇りたての太陽の光で、山頂付近だけがピンク色にうっすらと染まっている。僕にとってのシンデレラタイム。冬の早朝、サーファーならではの至福の嗜み。日日是好日なり。
Ryuei