The Law of the Wave 波の理56 正しさより楽しさの理〜Enjoy First, Explain Later〜

正しさより楽しさの理〜Enjoy First, Explain Later〜

冬の朝、ボードを小脇に、冷たいビーチを降りて海へ向かう。

沖では、朝日を受けた波が、静かに呼吸している。

頬を撫でる風、潮の香り、足の裏から伝わる水の冷たさ。

波乗り前の、説明のいらないこの余白が好きだ。

「サーフィンの何がそんなに楽しいの?」とよく聞かれる。

けれど、うまく答えられたことはなく、最近は、はぐらかすだけだ。

ラインナップで波を待つ刹那、近くのサーファーと目が合い、小さくうなずくだけで通じ合う。

説明は要らない。

ここにいること自体で、もう十分なのだ。

人に何かを勧めようとすると、つい、「正しさ」の話になってしまう。

でも正しさは、ときに人を遠ざける。

一方、「楽しさ」は語らなくても伝わる。

楽しんでいる姿そのものが、雄弁だから。

僕が海に通うのは、誰かを変えたいからでも、誰かに理解されたいからでもない。

ただただ、自分が軽くなっていくからだ。

波は何も教えてくれない。

ただ、感じさせてくれる。

海から上がり、チャリボーにボードを積むと、ビーチクリーンをしていた老夫婦が、ぽつりと言った。

「気持ちよさそうですね。」

それで、もう十分だ。

正しさを語らなくても、世界はちゃんと見ている。

楽しさはいつも、静かに人を引き寄せている。

日々是好日なり

Ryuei

→波の理55 神の領域の理

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