『神の領域の理』〜In God’s Domain 〜
朝は、まだ暗いうちから目が覚める。
朝イチサーファーの習い性だ。
コーヒーを淹れ、ストレッチをし、セミドライに着替えたら、ボードを抱えて自転車にまたがる。
ほんの数分で海に着くと、三浦の稜線がほんのり白み始めている。
風は穏やかで、うねりも悪くない。
やるべきことは、すべてやった。
あとは、海に入るだけだった。
けれど、すぐには波は来ない。
何本か気配はあっても、
こちらの思い通りには割れてくれない。
波待ちをしながら、自分の中に小さな焦りがあることに気づく。
「そろそろ来てもいいのに」
そんな期待を、いつのまにか握りしめていた。
そのとき、風が少し変わった。
潮の匂いが濃くなり、遠くのうねりの形が、わずかに揺らぐ。
ああ、ここから先は、神の領域なんだな、と思った。
準備も、努力も、選択も、今日の自分にできることは、すべてやった。
でも、波が来るかどうかは、もう自分の仕事じゃない。
そう思った瞬間、胸の奥で何かがすっとほどけた。
期待も、計算も、手放して、ただ海に浮かんでいる時間になる。
結果がどうあれ、今日の自分はやるべきことをやった。
そこまでで十分だ。
その先は、神の領域に委ねればいい。
波の音だけが、変わらず耳に届いていた。
日々是好日なり
Ryuei
