投げかけたものが返ってくるの理〜What You Give, Comes Back 〜
夕暮れの海。
波は小さく、セットも不規則なせいか、サーファーも少ない。
でも、そんな日のほうが、海の呼吸がよくわかる気がする。
ラインナップに出ると、見覚えのある顔がいくつか。
軽く会釈を交わし、少し間隔を空けてボードを回す。
言葉はなくても、海の中には静かな秩序がある。
ひとつの波を、少し遠慮がちに待っていた、髪を後ろで結った若いサーファーに譲った。
タイミング的には自分が乗れたかもしれないが、なぜか迷いはなかった。
彼女は一瞬きょとんとした表情をして、すぐに照れたような笑顔で小さく頭を下げた。
その仕草が、水面にやさしく溶けていった。
しばらくして、自分の前に一本の波が入ってきた。
今日いちばん、素直なフェイスを持った波。
さっき投げかけた気持ちが、かたちを変えて戻ってきたように感じた。
「投げかけたものが返ってくる」
そんな言葉が、ふと胸に浮かぶ。
許せば許され、笑えば笑顔が返る。
波も人生も、出したものが巡って戻ってくるだけなのかもしれない。
逆に、悪口や愚痴を口にした日のことも思い出す。
なぜか波は回ってこず、周囲との距離だけが広がっていく。
言った瞬間に、自分の世界が少し狭くなるような感覚。
裁く言葉は、いつも自分を先に縛る。
波は選べない。
けれど、どう振る舞うかは選べる。
それは、どんな海でも、どんな人生でも、
自分に残された唯一の自由だ。
「喜ばれるように生きる」
最初はきれいごとに聞こえても、やってみると案外ラクだった。
損得勘定から始めてもいい。
巡り巡って、いちばん得をするのは、結局自分なのだから。
波待ちの静けさの中で、今日もそんなことを思う。
潮の香りと水平線に沈む太陽の光が、すべてをゆっくり流していった。
日々是好日なり
