テイクオフの理
The Law of Takeoff 〜Pure Experience in Free Fall
夕方の海は、正直だ。
朝のように優しくもなく、昼のように騒がしくもない。
ただ、サイズのあるうねりが、黙って沖から迫ってくる。
セット間隔は長いが、
一本一本が重く、引きが強い。
波待ちをしているだけで、胃の奥がきりっと痛み、普段より、隣のサーファーが小さく見える。
行くか、行かないか。
そんな問いが、頭の中に去来する。
テイクオフするまでは、頭の中が騒がしい。
乗れなかったら、次のセットを喰らってしまう。
「考えるな」、と思うけど、その意識すら、もう思考だ。
セットが入った。
迷っている暇はない。
行くか、行かないかではなく、
もう“そこに置かれている”
グッと、いつもより深くパドルを始めた瞬間、思考は消えた。
否、消そうとしたのではない。
そんな余裕は、どこにもなかった。
音が消える。
せりあがる波の斜面も、スピードも、恐怖も、すべてが一つの塊になって、押し寄せる。
自分が乗っているのか、
波に乗せられているのか、わからない。
そこに、主客はない。
見る自分も、見られる自分もない。
ただ、その瞬間があるだけだ。
結果がどうだったかは、あとで決まる。
乗るか、乗れないか。
そんなことは、この刹那には関係がない。
これが、テイクオフなのだと思う。
主客同一。
無念無想。
無心無我。
強いて言うなら、
あれは『純粋経験』に他ならない。
深いボトムターンから、壁のような斜面を一気に抜けて、ショアサイドでプルアウト出来た。
振り返ると、夕陽はもう、海に溶け始めている。
さっきまでの出来事が、少し前の夢のように遠ざかっていた。
日々是好日なり
Ryuei
