
この夏、七月のまだ暑い盛りのこと。
ワックスを買いに、鵠沼のウォームアップサーフに顔を出した。
お店の主であり、我が師匠、ノブさんこと塩坂プロと、そのまま楽しい波談義に入った。
しばらくすると、一人の若い外国人女性が店に入ってきた。
どうやら、サーフボードをレンタルしたいらしい。
ノブさんが丁寧に対応し、気づけば僕も会話に加わっていた。
元商社マンの血が騒いだのかもしれない。
英語で話しかけてみると、彼女はドイツから日本へ来ているという。
彼女はドイツに住んでいて、サーフィンをする時は、お隣のフランスまで車を走らせて行くのだという。
「どれくらいかかるの?」
そう聞くと、
「十時間くらい」
と、ケロッとした表情で答える。
十時間?
思わず聞き返してしまった。
すると彼女は、何が?という感じで笑っていた。
彼女にとっては、ごく自然なことらしい。
十時間。
僕なら途中で心が折れるかもしれない。
でも考えてみれば、波を求めて車を走らせる気持ちは、湘南のサーファーだって同じだ。
距離のスケールが、ちょっと?違うだけなのかもしれない。
話しているうちに、ふと思った。
国は違う。
言葉も違う。
育った環境も違う。
それでも、サーファー同士で話していることは不思議なくらい変わらない。
波があった。
なかった。
どこで入る。
どんな板に乗る。
良い波を求めて、どこまで行く。
結局、そんな話ばかりだ。
サーフィンという遊びは面白い。
海に出れば、肩書きも国籍も関係ない。
どこの国から来たのかも、どんな仕事をしているのかも関係ない。
目の前に良いうねりが入ってくれば、みんな同じように沖を見る。
そして、
「あの波、いいな」
と思う。
ドイツから来た彼女が、僕がお世話になっているサーフショップに辿り着いたのも、なんだか少し嬉しかった。
遠い国からやって来た一人のサーファーが、僕たちのホームで波に乗ろうとしている。
海に国境はない。
あの日、ウォームアップサーフの店内で、そんな当たり前のことを改めて感じた。
日日是好日なり
Ryuei
Surfer・Illustrator&Author